「年越しそば」の話

2018年12月12日(水)


 今年も残すところあとわずかとなってしまいました。今回は少し気が早いですが、年末の食文化である「年越しそば」のお話です。

 大みそかにそばを食べる習慣は、江戸時代の中頃から定着してきました。これを「年越しそば」と呼んでいます。そもそもどうしてこの習慣が始まったのでしょうか。これにはいろいろな理由があるようですが、大きくは以下の3つです。

(1) そばは「細く長い」食べ物なので、長寿を願って年末に食べるようになった。
(2) 蕎麦は切れやすい食べ物なので、一年間の苦労や借金などを切り翌年に持ち越さないよう願って食べるようになった。
(3) 金銀細工師がこぼれた金や銀を集めるのにそば粉で練った団子を使ったため、金運向上を願って食べるようになった。

 どれももっともらしい理由ですが、おそらくこれらの理由が合わさって、「年越しそば」として定着してきたのではないでしょうか。ちなみに、地域によっては大みそかではなく、お正月に「元旦そば」を食べるところもあるようです。
 郷土料理が豊富な日本では、一口に「年越しそば」と言っても、その種類や食べ方は地域によってずいぶんと違うようです。郷土料理として有名なそばがある地方では、やはり年越しそばには郷土そばを食べます。たとえば北海道や京都では、身欠き鰊の甘辛煮を載せた「にしんそば」。鰊の子供は数の子ですから、子孫繁栄も願っているようです。また、福井の「越前そば」や、海藻を練りこんだ新潟の「へぎそば」なども、それぞれの地方で年越しそばとして食べられています。「わんこそば」で有名な岩手県盛岡市では、古くは自分の年の数だけ食べなければならなかったそうです。うどんで有名な香川県は、年越しそばならぬ「年越しうどん」を食べる習慣があります。さすが「うどん県」ですね。東京の郷土そばは「おかめそば」です。おかめそばとは、かまぼこや鳴門、お麩などの具材を顔に見立てて盛り付けたそばで、見た目が縁起ものの「おかめ(お多福)」の面に似ていることからこの名がつきました。

 年越しそばは、健康上の理由というよりは、やはり縁起をかついで食べられているようです。一番多いのはやはり海老の天ぷらが乗った「天ぷらそば」ではないでしょうか。海老は腰が曲がっているので、やはり長寿を願うおせち料理に欠かせない食材の一つです。

 皆さんも、平成最後の大晦日の夜は、ぜひ温かい天ぷらそばを食べてみませんか。きっと心も体も温まること間違いないと思います。これから寒い日が続きます。どうぞ風邪などひかないで、良い年をお迎えください。


「湯豆腐」

2018年11月14日(水)


 秋も深まり、少し肌寒さを覚える季節となりました。こんな時期はやはり「鍋もの」が恋しくなります。今日は「湯豆腐」の話です。

 豆腐は日本料理に欠くことのできない食材で、庶民の貴重なタンパク源として親しまれてきました。その起源は、紀元前2世紀に中国で誕生したという説があるくらい、古くから人々に馴染みのある食材です。日本には、鎌倉時代の初めに遣唐使が伝えたといわれ、精進料理の発展とともに広まってきました。江戸時代には、いろいろな豆腐の料理を紹介した「豆腐百珍」という本まで出版されるほど人気の食材となりました。

 スーパーの豆腐売場に行くと「絹ごし豆腐」と「木綿豆腐」の2種類が売られています。これらは材料である大豆に違いはなく、製法上の違いです。水分の多い「絹ごし豆腐」に比べ、布を敷いた容器で、ある程度水分を切ったのが「木綿豆腐」です。そのため、絹ごしでは豆腐のツルンとした美味しさが楽しめるのに対して、木綿はしっかりとしていて大豆の味がやや濃いのが特徴です。どちらでも湯豆腐を楽しめますが、美味しい湯豆腐を作るには、やはり「絹ごし豆腐」が良いですね。

 湯豆腐は、シンプルな方が美味しくいただけます。まず鍋に水を張り、出汁昆布を入れます。1時間くらい置いて昆布が柔らかくなったら、食べやすい大きさに切った絹ごし豆腐をいれて火にかけ、ゆっくりと熱していきます。この時ポイントになるのは、沸騰させないこと。沸騰してしまうと、豆腐の香りも飛んでしまいます。豆腐が「ぐらりとよろめく」ようになった時が食べごろです。柔らかい湯豆腐が好みの人は、鍋にひとつまみの塩、または刻んだ大根を入れるとよいといわれています。佐賀県の嬉野温泉では、温泉水で作った「温泉湯豆腐」が有名ですが、面白いことに温泉水で作ると豆腐がだんだん溶けていってしまいます。

 暖まった豆腐を取り皿に掬い上げ、醤油・酒・みりん・出汁などで作ったタレにつけていただきます。代表的な薬味は、刻み葱とかつお節。いろいろとくわえたくなりますが、薬味を少なめにしておくと豆腐の味がより引き立って美味しくいただけます。

 湯豆腐料理といえば京都が有名です。京都市内にはたくさんの湯豆腐屋さんがありますが、東山南禅寺と、嵐山嵯峨野に有名店が集まっています。やはり美味しい豆腐を作るには良い水が必要なのですね。
 安価な食材で手軽に作れ、栄養たっぷりな湯豆腐。ぜひ今夜試してみませんか。


「おにぎり」

2018年09月16日(日)


 今年も新米の季節がやってきました。

 お米の美味しい食べ方はたくさんありますが、一番手軽にお米の美味しさを味わえるのは、やはり「おにぎり」ではないでしょうか。おにぎりの歴史は古く、能登半島の中央部にある石川県鹿西町(現中能登町)で2千年前(弥生時代)につくられたおにぎりの化石が発見されています。ちなみに、この鹿西町(ろくせいまち)の「ろく」と、毎月18日の「米食の日」をあわせ、毎年6月18日が「おにぎりの日」なっています。

 「おにぎり」はとてもシンプルな料理ですが、それだけにバリエーションも多く、中の具材の種類や、海苔の巻き方、白米や炊込みご飯のおにぎりなど、いろいろと楽しめます。具材の一番人気は「焼き鮭」、二番目が「梅干し」、三番目が「辛子明太子」だそうです。最近では、「ツナマヨネーズ」や「半熟たまご」なども人気があるようです。

 美味しいおにぎりを作る秘訣は「あまりしっかり握らないこと」。ご飯をフワッと握ると、お鮨のシャリのように口の中でご飯が上手にほぐれ、いっそう美味しくなります。最近では、ご飯を軽く固めただけの「おにぎらず」などという料理まで登場しています。

 私が一番好きなのは「おかか」です。かつお節にしょうゆで味をつけた具材を炊きたてのお米に入れて海苔をまいたおにぎりは、最高に美味しいごちそうです。冷たくなってもそのまま茶碗に入れて、濃い目の緑茶を注いでお茶漬けにするとまた格別の味です。海苔の風味とお茶の旨味に、醤油とかつお節の美味しさが加わり、豊かな香りとともに楽しむことができます。あるいは、表面に味噌や醤油を軽く塗って、「焼きおにぎり」にしても美味しいですね。

 本校調理研究科では、「おいしい素材の研究」をテーマに、4月から自分たちの手で米づくりを行ってきました。9月9日に稲刈りを行ったのですが、今年は200キロ近い豊作でした。10月6日(土)・7日(日)の学園祭にて、そのお米を使って「自家製おにぎり」を調理販売します。6月の草取りの時に収穫した梅で作った自家製梅干しや、4月に学生一人ひとりが仕込んだ味噌も使った、工夫を凝らした「おにぎり」を楽しんでいただけます。学園祭では、彼らの収穫したお米も小分けで販売する予定です。ぜひ味わいに来てください!


「カレーうどんの話」

2018年09月11日(火)


 今年の夏はことのほか暑かったですね。暑い時は冷たいものを食べたくなりますが、思い切って熱いものや辛いものを食べて、たくさん汗をかくと意外にも涼しくなることがあります。そんなわけで今回は残暑の中「カレーうどん」のお話です。

 そもそもカレーが日本で食べられるようになったのが明治時代なので、カレーうどんの歴史はまだそれほど長くありません。その発祥については諸説ありますが、一番有力な説は、東京早稲田にあるお蕎麦屋さんの「三朝庵」だそうです。このお店は、江戸時代(安政年間)創業の老舗で、早稲田大学創立者の大隈重信などもよく通ったお店として有名です。明治も終わりごろになると、このお店の周辺にハイカラな「カレー」店がたくさんできて、お客が少なくなってしまったので、店主が思い切ってそばにカレーをかけた「カレー南蛮」を考案したのが始まりといわれています。(ちなみにこの「三朝庵」は、カツ丼発祥の店としても知られています。店主が工夫好きだったのですね。)

 最近はカレーうどん専門店などもできているようですが、おそば屋さんには「カレーうどん」と「カレー南蛮」という二つのメニューがあることがありますが、皆さんはその違いをご存知ですか?

 カレー南蛮といえば「そば」だということです。元来はうどんの「南蛮」はありません。また、具材も違います。「鴨南蛮」というメニューでもわかるように、そば屋で「南蛮」といえば「長ねぎ」のことです。ですから、本来のカレー南蛮は、そばにカレールゥをかけ、南蛮(長ねぎ)を載せます。それに対して、カレーうどんは、長ねぎではなく玉ねぎを使うことが多いです。つまり
  カレーうどん=玉ねぎいりカレー+うどん
  カレー南蛮 =カレー+そば+長ねぎ載せ
となるのが本来のようです。

 カレーうどんの魅力は、やはり和風出汁の効いた麺つゆで溶いたカレーの美味しさでしょう。和風出汁の風味とカレーの旨味を合わせた味は、ご飯にかけるカレーとはひと味もふた味も違います。うどんにかけるカレーには、必ずトロミがついており、アツアツのうどんをさらに熱くしてくれます。これは、汁の飛び跳ね防止のためもあるそうです。

 まだまだ暑い日が続くようですが、カレーうどんを食べてひと汗かいて、涼しさを呼び込んでみてはいかがでしょうか。

Copyright ©東京すし和食調理専門学校 All Rights Reserved.