おはぎ


 9月の祝日である「秋分の日」は、日本の暦では雑節のひとつである「お彼岸」です。お彼岸とは昼と夜の長さが同じになるこの日を中日(ちゅうにち)として、前後3日間の「あの世へのゲートが開く」1週間のことで、ご先祖様の供養にお墓参りをする習慣があります。仏教行事ですがこれは日本独特の風習です。

 このお彼岸に食べるものといえば「おはぎ」。もち米を蒸かして軽く搗き、邪気を払うといわれている小豆から作った甘いあんこで包んだ食べ物で、皆さんもきっと一度は食べたことがあるのではないでしょうか。おはぎはもち米をお餅になるまで完全に搗かずに、粒が残る程度にとどめます。こういう搗き方には昔から「半殺し」という恐ろしい名前がついています。

 「おはぎ」と同じような食べ物に「ぼた餅」というものがあります。これもおはぎと全く製法が同じで、見た目にも何も違いがないように見えます。実は「おはぎ」と「ぼた餅」は同じ食べ物なのです。

 昼と夜の長さが同じになる「お彼岸」は、春にもあります。3月の祝日である「春分の日」がそうです。この時にも秋の彼岸と同じように小豆餡で包んだもち米を食べます。春は牡丹の花の季節なので「牡丹餅(ぼた餅)」、秋は萩の花の季節なので「おはぎ」と名前が変わるのです。あえて違いをいうならぼた餅は「粒あん」の場合が多く、おはぎは「こしあん」が主流です。これは小豆の旬の季節が晩秋から初冬のため、春のぼた餅は出来立ての小豆を使うので皮まで軟らかくつくれるからです。

 おはぎやぼた餅は夏や冬にもおやつ代わりに食べることがあります。夏のおはぎは「夜舟(よふね)」、冬のおはぎは「北窓(きたまど)」と呼ばれます。この理由は先ほどの「半殺し」にあります。おはぎのもち米は半殺しのためお餅と違って音を立てて搗きません。そのためいつ搗いたのかわりませんね。夜に舟を出すと暗いのでいつ着いたかわからない、すなわち「着き知らず→搗きしらず」。北側の窓には月は出ないため、「月知らず→搗きしらず」という言葉遊びがその発祥のようです。同じ食べ物でも季節によって名前が変わるのは、とても面白いですね。

 地方によってはきな粉をまぶしたり、胡麻をつけたり、枝豆を使った「ずんだ餡」を使ったりといろいろなバリエーションがあります。また最近ではおはぎの専門店も誕生し、様々な食材や形をしたとても美しく美味しいおはぎを売り物にするお店も誕生しています。

 皆さんも9月のお彼岸、3月のお彼岸にはぜひおはぎ・ぼた餅をたべて息災にお過ごしください。